追跡者菊池秀行

最近の私が普段一番数読むのは時代物なのだが、文庫で出れば掴む作家の新刊がどいう巡り合わせか途絶えていた。 もっともそういうときがあるからこそお初の著者に手を出してみるわけで、そうして『追跡者』を手にし読み進むにつれ、「こりゃいかん」と思った。 時代物には違いないのだが、よく見れば裏表紙の解説にそう書いてもあるのだが、私の苦手な怪異譚だったのだ。 とはいえ、

『追跡者』は短編集で、実際には短編5作と更に短い掌編4作が交互に収録されている。 「なんかおかしい」と思ったのは最初の短編『童子物語』も最後の方に差し掛かってからだった。 次の『』

『狂王ヘロデ』は古代ローマ時代のユダヤ王ヘロデの物語であり、唖の竪琴弾きの少年の視点から語られる。 この語り部の創作がいかにも曾野綾子氏であるというか、「あるがままに見つめる」語り部そのものである。

ヘロデ王という名前は聞いたとこがあるにしても、平均的日本人には馴染みの薄い土地と時代の話だが、この題材を上質の作品に仕上げられる日本人はそうそういない筈である。 ユダヤに生じた信仰や、その土地を巡るさまざまな民に対する深い理解がなければ、単なる寓話になってしまいそうなところである。

曾野綾子作品は、残る。 特に短編で私はそういう経験をしているのだが、印象が後をひくというか、ずっと後になって作中の場面が突然思い浮かぶことになるのだ。 『狂王ヘロデ』も随分残りそうである。 読書を「他人の人生を経験してみられるもの」と位置づける人がいるが、そういう捉え方によるなら曾野綾子作品は最上等のものであろう。

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