悪党ロバート・B・パーカー

文庫では久しぶりに出たスペンサー・シリーズの新作で、シリーズ24作目。 近年著者が並行して書いているサニー・ランドル・シリーズやジェッシイ・ストーン・シリーズなども楽しいのだが、ロバート・B・パーカーと言えばやはりスペンサーである。

実は私はミステリー系の本は普段あまり読まない。 ましてや探偵物ハードボイルドなどに食指を伸ばすことはなかった筈なのだが、私以上に乱読の知人から10年ほど前に薦められ、即座にスペンサー・シリーズの虜になってしまった。 どうやら世間では異色のハードボイルドと見なされているようだが、他の作家のハードボイルドはほとんど読んでいないので私には比較することができない。 しかし相当に異色なのだろうと思う。

だいたいからして、主人公たるスペンサーが多弁である。 しかも内省的で生活感に溢れ、自らの些細な欲望を意識しつつ、常に自己規範に照らして限定的に禁欲を行い、ときにそれを破る。 カフェイン入りのコーヒーを飲むのを悪徳として楽しむ主人公がハードボイルドだなんて、ある意味ちゃんちゃらおかしいではないか。

しかしそれでもなお、スペンサーがハードボイルドであるには違いないとも思うのである。 おそらく、伝統的なハードボイルドの本質を維持しつつ、そこに現代的なリアリティーを求めた結果がスペンサーなのではないだろうか。 もっとも、「そんなヤツ実際にいるもんか?」という意味では、実に個性的なヒーローである。

なお『悪党』に関しては、従来作品同様、現代アメリカが抱える社会問題を直視しながらも、エンターテイメント性もかなり重視された作品となっている。 人気の高い脇役、ホークやスーザンが登場するのはもちろん、警察・ギャングなどにも留まらず、過去の作品に登場した個性的な人々が多数再登場する。 その点に限ってリアリティーが少々犠牲になっている気がしないでもないが、スペンサーファンの片頬が緩みっぱなしになること請け合いだ。

それだけに、はじめてスペンサー・シリーズを読む人にはあまりお勧めしない。 『悪党』のできが良くないということではけっしてなく、どうせ読むなら一通りスペンサー・シリーズを読んだ後の方が何倍も楽しめると思われるからである。

スペンサー・シリーズのほとんどは謎解きの物語ではない。 それもあってストーリーの骨格はシンプルな作品が多く、『悪党』でも同様である。 そこで、ストーリーには一切触れないままとしたい。

戻る